心が肉体が泥の中に沈んだままのようだ。
そこからはい上がって空を見るまで、一日かかってしまう。
九ちゃんと話したり、話の合う友に逢ったり、読みたい本を広げたりして、やっとスモッグや埃を振り払う。
パソコンも開きたくない。
飛び込んで来るメールは、「儲かります」「おしゃれ出来ます」「食べられます」「ヤレます」の基本欲望ばかり。
まあ、生きている<証明>なのか。
星を眺め、空港へ向かう飛行機を眺め、少しずつ少しずつ、言葉が感覚が感性が蘇ってくるのを待つ。
そんな状況にいるからなのかどうか、<見たこともないもの 見てみたい>とCMの歌が耳に入る。
あれ、
誰かが個人的に「北の国のオーロラ」も「クジラのダンス」も「見たことがない」にしても、「アリンコの涙」って、個人的にも集団的にも縄文的にも弥生的にも古文書的にも浮世絵的にも民博的にも歴博的にも、「見られる」ものじゃないよなあ。
あ、あ、あ、スモッグをかき分けたら、
右脳左脳の涙でも見てみたい。
曇った車のフロントグラスを通して、中にいるコチラはどのくらい見られているのか……ふと、「見たこともないもの」の一つとして、脈絡もなく思い浮かんだ。

